コラム

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2017.04.01新入職員OJT担当者の皆様へ

いよいよ新年度が始まりました。新入職員を迎える職場も多いことでしょう。新入職員は、夢と希望と不安と現実が交錯している時期がしばらく続きます。同じ組織、地域を支える仲間として、十分な準備をして迎えて頂きたいと思います。

OJT研修では、仕組み作りや技術的側面に時間を割く必要があるため、ここでは、日頃、掘り下げて話すことができない新入職員OJT担当者の意義について、組織文化の観点から解説してみたいと思います(制度設計や指導内容、コミュニケーションの留意点等のスキルについては、是非、研修をご活用ください)。

新入職員は、「いわば異文化からの来訪者」です。新たな文化の入り口に立ち、案内役となる新入職員OJT担当者は、以下の3つの役割があります。

1.新たな文化の「案内者」
2.初めて身近に接する「文化を体現する者」
3.「新たな組織文化に染めようとする者」

【OJTとは】
OJTとは、On the job trainingの略で、職場内研修を意味します。仕事と直接・間接に関係する知識・技術を、職員自らがその職場において教え合い、学びあう活動です。一般的なOJTでは、職場で担当する「仕事の知識・技術」(図:仕事のピラミッド④)の習得を目的とし、必要に応じて③「職場の知識」を対象とします。

【新入職員OJT担当者は3つの役割を意識する】
では、新入職員OJTの場合も対象は同様でしょうか。新入職員の場合、①②の分野は集合研修(Off-JT)、③④はOJTで身につける、といった自治体組織が多いでしょう。しかし、これは教える側の便宜であって、教えられる新入職員の側からすれば、「新たな世界を知るための知識・技術・その他の決まり事」という点では③④と何も変わりはありません。

OJTを受ける新入職員は、職場で教えられる③④のみならず、休憩時間のちょっとした言動や態度から、①②までを読み取ろうとします。「異文化からの来訪者」が、初めて身近に接する「組織(職場)文化を体現する者」がOJT担当者です。言葉以外の態度・仕草等の情報(ノンバーバル情報)が重視され、一方的に解釈され、「そういうもの」として受け容れられます。

たとえば、人材育成方針にある「めざす職員像」を質問されたとき、OJT担当者がこれに重きを置かず、あるいは冷笑的な態度をとれば、新入職員は「めざす職員像」を蔑ろにするでしょう。たとえば、担当者が忙しさ・厳しさの中にも人に対する思いやりをもって接すれば、職場の在り方・働き方として、その姿勢を取り込んでいくでしょう。

OJT担当者は、通常、④「仕事の知識」を教えることに注力をしています。しかし、新入職員は、④を通じて③~①の知識ピラミッド全体を体感し、学び、取り込みます。また、それらに対するOJT担当者の態度・評価を通じて、新たな組織やその文化・風土を「そういうもの」として受け容れていこうとします。

この意味で、新入職員OJT担当者は、自分が無意識のうちに表現している「組織文化の色に染める者」であることを避けて通れません。誤ったメッセージを発しないように留意したいところです。

では、誤った色に染めないためには、どうしたら良いでしょうか。
それは、仕事に対し真摯に取り組み、人に対して誠実に対応を心がけ、実践することでしか対処できないと考えます。2つの文化が衝突し、融和していく過程では、お互いが謙虚になり、お互いに興味をもち、理解し合おうという姿勢を心がけることが必要です。

「かもしれない」という姿勢は、対象を動くもの、動態的に捉えることです。自分を疑いつつ、自分の判断を信じる。信じつつ、疑う、という曖昧さに耐えることが求められているのです。

【最後に】
自分の仕事をもちながら、新入職員のOJTを担当することは、大変骨の折れることです。しかし、Teaching is learning.(教えることは学ぶこと)というように、OJTで教えることは、目的に照らして仕事の意義をみつめ、手順を見直し、考える機会です。

ましてや、相手は「異文化からの来訪者」です。いつの間にか凝り固まってしまった「組織(職場)の常識」に対する新鮮な視点を提供してくれるはずです。

自治体組織を、そして地域を、住民を支え、未来を切り拓く仲間として、共に学ぶ気持ちで、新入職員に接して頂きたいと思います。

以上

(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師  後閑 徹


2017.03.01時間外労働削減に挑戦する際の留意点


【時間外労働の削減は、個人の業務改善努力で可能か】
時間外労働の削減は、官民問わず取り組まなければならない優先順位の高い課題です。自治体でも、ノー残業デイの実施や、終業後一定時間での消灯、時間外労働の上司の許可制等の取り組みがなされています。
その際に必ずといって良い程挙げられるのが、「仕事の仕方の見直し」です。そして、その言わんとすることの多くは、仕事の効率化・職場での業務改善であり、つまるところ個人の努力如何になっている職場が多いでしょう。

しかし、個人の業務改善努力で時間外労働の削減が可能であるというためには、「無駄な仕事」が時間外労働の多さの原因であることが分析されている必要があります。果たして、自治体組織における時間外労働の原因は、「無駄な仕事」にあるのでしょうか。

【時間外労働が必要となる原因の探求】
以下は、厚生労働省の「平成28年 過労死等防止対策白書」に記載されているデータです。厚生労働省が、所定外(=時間外)労働が必要となる理由を企業側、労働者側の2者の観点から調査しています。

【自治体組織では?】
では、翻って、自治体組織では如何でしょうか。

民間企業と異なり、自治体組織は仕事の種類が多く、業務改善を組織的・定型的にすることは出来ません。また、特に一般事務行政職は職員数も減少しています。管理職のプレイングマネジャー化、監督職の完全プレイヤー化も進み、仕事の管理が十分出来ず、自己流の仕事の仕方が蔓延している部署も民間企業に比べ多いかもしれません。その意味で、業務改善の必要性を否定することはできないでしよう。

しかし、自治体組織に、民間企業と同様の問題がないといえるでしょうか。研修において、突発的仕事の存在も、人員と仕事量の不均衡も、繁閑期の差も、よく受講生の方々から出てくる言葉です。
今から10数年前、ある著名な経営学者の著書で、「組織は、組織の問題を個人の能力の問題にすり替える」という趣旨の言葉に出会いました。当時、マネジメントをする立場であった人間として、私自身が肝に銘じた言葉です。

さて、皆様の組織は、組織が解決すべき問題を個人の問題にすり替えてはいないでしょうか。重大な問題であるからこそ、この問題の真の原因を厳しく見つめ、分析し、有効な解決策を策定する必要があります。そして、それは、取りも直さず、管理監督者層の責務です。

以上

(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師  後閑 徹
参考:厚生労働省:平成28年版過労死等防止対策白書


2017.02.01曖昧さに耐える知的忍耐力の必要性

昨年の11月1日、NHK朝のニュース「おはよう日本」で、某自治体における災害時の相互扶助の仕組みが取り上げられていました。番組では、災害時には、80歳の男性が、昼間ひとりでいることの多い88歳の男性を伴って避難する役割と紹介されていました。このような施策は、高齢者を一律に「支援される人」と認識していては出てこない発想です。そして、これは、現在すすめられている「地域共生社会」の考えと軌を一にする政策です。

【地域共生社会】
子供・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる「地域共生社会」を実現する。このため、支え手側と受け手側に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し、福祉などの地域の公的サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる仕組みを構築する。(略)
※下線は筆者  ニッポン一億総活躍プランより

【社会の進化(深化)がもたらすもの】
言語は、ひとつの事象を概念化する(定義付ける)ことで、Aと非Aを峻別し、論理を構成する前提となりました。したがって、前提にある概念・定義が崩れれば、当然、これまでの論理も維持できません。

しかし、上記の例のように、社会の変化は、私たちに言語の(そして、概念の)見直しを迫ります。分析的に観ると、何事であってもAと非Aの間(あわい)が限りなく不確かなことが認識されます。

例えば、これまでは、一定の年齢(60歳~65歳)になると、あたかも階段を一段上るかのように、後進に道を譲り、知恵を授け、支援・育成する役割が社会から求められてきたはずです。しかし、近年は、未だに最前線で自分が何者かであろうとする元気な高齢者が増えています。単純な善悪二分論に基づく勧善懲悪のドラマや時代劇が激減したのは、何も偶然ではありません。

私たちの社会は、世界を単純化して認識することを拒否する時代に入っているのかもしれません。そして、それは同時に、これまでの論理を根本的に見直さなければならない時代でもあるはずです。

【求められるのは曖昧さに耐える知的忍耐力】
ものを、色のグラデーションのように曖昧なまま認識することは、大変疲れることです。「Aとは・・・である」と割り切るほうがどれだけ楽でしょう。「AとはA的なものを含む総称である」というものの見方は、「Aとは・・・である、かもしれない」というように常に判断を固定させることが出来ません。

「かもしれない」という姿勢は、対象を動くもの、動態的に捉えることです。自分を疑いつつ、自分の判断を信じる。信じつつ、疑う、という曖昧さに耐えることが求められているのです。

愛憎相食むという言葉があるように、私たちは時に、相反する価値を同時にもつことがあります。このような状態をアンビバレント(ambivalent)といいます。

矛盾した状態を自己の中にもつことは苦しいことですが、そのような状態をまるごと観察する姿勢が、これからの時代には必要なのではないでしょうか。そして、社会の変化を取り込むものとして、「今そこにあるもの」をよりよく認識するためには、アンビバレントな状態に耐える知的忍耐力を養う必要があるように思います。そして、それはきっと、物事や人に対し、真摯に向き合うことでしか成しえないことだと、考えます。

以上

(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師  後閑 徹


2017.01.01自治体職員が「社会正義」を考える必要性について

【環境・時代の変化を取り込む】
組織は、刻々と変化し続ける環境を取り込みながら、自らを変化させ、存続します。デジタルカメラの普及に対応できなかったフィルムメーカーコダック社は倒産し、パソコン市場の過当競争時代の到来を予測したIBMは、パソコンメーカーから情報ソリューション企業へと転換し、日立はインフラ事業を進めています。

市場や時代に合わない企業の末路は、衰退・倒産です。この過程で余剰した労働者は、新興産業へと移動し、時代を進めます。しかし、民間企業と異なり、憲法に基礎づけられた自治体組織は、倒産することが許されていません。だからこそ、自治体組織は民間企業以上に外部環境を取り込み、変化していく必要があるのです。

【外部環境変化がもたらすもの】
TPPの動向、介護人材の要件緩和による介護分野における外国人増加、IoTの進化、気候変動による適作地の変化、団塊の世代の後期高齢者入り、高齢者加害による交通事故の増加etc. これらの外部環境変化は市民生活に直接影響を与えます。

そして、外部環境の変化は地域の要求(ニーズ)の変化を生み、それに応じた組織変革・人材育成・事業形成(&スクラップ)を必要とします。

しかし、それだけではありません。憲法の理念を地方自治の枠組みで実現する自治体職員の皆さんは、全体の奉仕者として社会正義〔i〕の実現をする責務を負っています。その社会正義の内実もまた、時代とともに変化します。例えば、人工知能(AI)について考えてみましょう。

【問 題】
人工知能(AI)搭載車が、一方通行の道を走行中に前方を走行する車が急停車しました。右にハンドルを切れば老人夫婦にぶつかり、左にハンドルを切れば親子にぶつかる状況で、どちらにハンドルを切るべきでしょうか。

研修中、聞いたところ、この問いに対し、「右(老夫婦)を選ぶ」と答えた方が9割以上でした。

これは命を余命の長さで考えるということでしょうか。将来性?逸失利益?社会的損害?どれも妥当でないような気がします。この問いは、人間自身が考えなければならない哲学的な問題であり、人工知能(AI)に決定させる類の問題ではありません。

これまでであれば、刑法・民法上の責任は、緊急避難の成否に解消され、倫理的避難は、個人に帰するでしょう。しかし、自動運転車において、人間と車の判断が食い違った場合、車の判断を優先することで法制化の準備が進んでいます。個人に向けられた倫理的非難さえも、個人から切り離されることになります。

私たちは、「なぜ、老夫婦を選んだのか」、という被害者やその親族の非難や怒り、悲しみに対し、どう答えれば良いのでしょうか。

また、世代間対立・地域間対立が、今後より激しくなれば、限られた財の分配基準が必要となるはずです。その根底にもまた、社会正義を如何に考えるか、が横たわっています。

【組織の面からみる「社会正義を考えること」の必要性】

組織ビジョン:組織のあるべき姿
組織目的:組織が獲得すべき価値

組織ビジョン・組織目的の策定には、社会正義を含む外部環境の変化と予測が取り込まれます。そして、組織ビジョン・組織目的を背景にした組織目標により、事業が生み出されます。すなわち、社会正義は、時に事業を統制・制御し、時にその実現する内容そのものとなるのです。

例えば、生活保護需給者数の「適正化」をすることは、財政上の理由から求められることでしょう。そのために「数値目標」を設定した自治体もありました。

昨年12月7日に厚生労働省より発表された生活保護受給者数は過去最高を更新し、163万6302人。そのうち、65歳以上の単身高齢者世帯が増加し、対策は待ったなしです。

しかし、だからといってこの問題を、財政面からのみ考えて良いはずはありません。福祉政策であることの意味、福祉が必要とされる意味、ひいては社会正義とは何か、という観点からの検討がなければ、生活保護受給者数の「数値目標」を設定することは極めて危険です。現に、政策形成研修の現場では、そういった「危険な単一視点」の政策案が出てくることが、少なからずあり、危惧の念を抱きます。

様々な利害関係人をもち、多様な要求を受けながら、限られた資源で自治体を運営することは、大変難しいことです。しかし、そのような多様性を切り捨て、単一の視点・価値で割り切ることもまた危険です。「多様な価値、視点を如何に統合していくか。」この困難に立ち向かうのが地域の未来を創る責務を負った自治体職員の仕事ではないでしょうか。

社会的正義とは何か、その解答を出すことは決して容易なことではありません。しかし、その容易でないことを探求し続けることが、自らの判断・行動を常に顧み、検証し、修正する姿勢へとつながるはずです。

【最後に】
変化を取り込むということは、変動する要求・思考・価値・そして、それらの背景にある社会正義を考え、実現することです。その困難さに立ち向かう自治体職員の皆さんには、自らの職務の重大さと、それに取り組む大いなる誇りを思い出していただきたいと思います。

[i] 社会正義とは、自分自身と他者の視点を入れ替えて考えても納得できる、価値的判断基準。
どのような状況においても、誰にとっても絶対的に正しいといえる社会正義は存在しない。(政策形成研修テキストより)

以上

(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師  後閑 徹


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