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コラム

 このページは月一回程度、最近の話題や講義から弊社講師の意見や分析、感想などを記述したものです。



平成29年(2017年)11月
 相談業務から働き方改革を考える

 先日、ある福祉事業団のマネジメント層の方々を対象とした研修を行ってきました。
 研修は、ご要望を反映し、職場運営の方法や困難事の共有と解決策の策定を中心に進めましたが、途中、仕事の管理手法として、優先順位の決め方、進捗管理や仕組み作りの必要性等も織り込みました。その中で、ひとつひとつの仕事の工程を見える化し、求められる水準を最も早く実現できる工程に揃えることの重要性のお話もしました。そして、昼休み、終了時の質問時間に、この点についての疑問が呈されました。

【相談業務は管理できるのか、というご質問への私の回答】
 ご質問は、ともに相談業務は非定型的業務であり、被相談(応談)者の個人的スキルに依存するため、定型的業務を前提とする仕事の管理手法は妥当しないのではないか、という内容でした。
 相談業務は、確かに、相談者の相談内容や置かれている状況、被相談(応談)者の傾聴等のスキルに依存する部分が多く、業務時間を特定することは難しいかもしれません。また、聴くことによる不安・不満の解消自体が重要という相談業務の本質からも、一律に時間を決めることは難しいでしょう。
 しかし、果たして、そう簡単に割り切ってしまって良いでしょうか。
 相談業務も ① 把握すべき情報を聞き出す仕事、② 不安・不満に寄り添い、負の感情を解消してもらう仕事に分けられるのではないでしょうか。
そして、① 把握すべき情報を聞き出す仕事については、フロー図の作成や聴きとる際のフォーマットを作成することで、ある程度は定型化・効率化すべきです。また、② 不安・不満に寄り添い、負の感情を解消して頂く仕事について、個人のスキルに任せきりにしていないでしょうか。確かに、その人の性格や醸し出す雰囲気等、個人の資質に大きく依存する仕事であったとしても、それが自己満足に陥っていないか、より良い対応の仕方はないか、を職場で考え、共有することはすべきでしょう。「不安を感じている相談者には、こういう言葉がけや順番が良いようだ」、「なかなか決断できない方には、決断すべき事柄を紙に書いて見せておきながら、感情に応ずると良い」等、現場で身につけた各々の技術を共有する時間・場を作る必要があると思います。

【何のための効率化か】
 私の回答に、質問してくださった方々やその他の方々も、頷いてくださいました。確かに、個人の技量に任せていた部分が多くあり、スキルを共有する場の必要性をご理解いただいたからだろうと思います。
しかし、帰りの新幹線の中で私が感じていたのは、自分の口から出た言葉への小さな違和感でした。それは、相談者の気持ちに寄り添うという福祉に従事する方々が大切にしている点を、技術(スキル)の面からのみ切り込み、回答した点にあったことにすぐ気が付きました。あたかも効率性という一つの価値に過ぎないものを、当然の実現すべき唯一の価値であるかのように解説してしまったことへの反省です。
 私は、回答の先に、「何のための効率化か」を問いかけるべきだったと考えています。何故なら、仕事は、仕事の成果をだすためだけにするものではないからです。
 それは、相談者の人生への心情的支援であったり、組織への貢献であったり、自己の能力の確認であったり、後輩や部下への教育であったり、課題への挑戦や自己が成長する過程そのものでもあります。
 管理法に基づく効率性の追求が仕事の本質であったなら、それは無味乾燥な作業と何も変わりません。先のご質問を受けた際に、この点をともに考える必要がありました。
 その時間をとることで、仕事の管理は、時間捻出による他の価値を実現する手段として位置づけられることとなったはずです。そして、その時間は、仕事を管理すること自体を目的化することを避け、仕事の多様な意義をもう一度確認することに繋がったのではないでしょうか。




【働き方改革≠時間短縮】
 働き方改革が実現すべき課題として設定される現在、タイムマネジメントや業務改善の必要性が叫ばれ、事実、そのようなご依頼を多く受けています。
 しかし、私たちの仕事は、効率性だけを唯一の価値としている訳ではありません。効率性やこれを含む実効性を高めながら、仕事を通じて得ようとする多様な価値の実現を如何に図るか、ともに考える必要があります。
 働き方改革の真の意味を、働く現場で、それぞれの価値観に照らし合わせて考えることを忘れてはならない、と再度肝に銘じるこの頃です。

以上


(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師
 後閑 徹






平成29年(2017年)7月
 働き方改革の中でキャリア開発を重視すべき理由

【仕事量の削減+仕事の効率化】
 時間外労働時間を原則週45時間、年間360時間以内とし、違反者には罰則を用意する働き方改革関連法案が秋の臨時国会に上程される予定です。これを先取りするように、官民を問わず、働き方改革に取り組んでいる組織が増えています。
 働き方改革というと、事業の見直しや業務改善を行ったり、仕事の段取りやタイムマネジメント等の技術を身に付けたりと、仕事の削減や効率化をすぐに思い浮かべるのではないでしょうか。
 しかし、働き方改革において「仕事」そのものだけに目を向けるのは十分ではありません。時間外労働削減を契機に、職場の問題が顕在化してきているように思います。


【集団凝集性を高める+納得感ある仕事の平準化+上司の役割】
 仕事量が思うように減らない中、時間外労働の削減を実行するのは至難です。そして、その無理は、往々にして「仕事ができる人」「仕事時間に制約がない人」に向かっているのではないでしょうか。職場における仕事分配の不公平感は、管理職層の方々からよくご質問を受けることのひとつです。

 職場において肯定的な規範(例えば、「困ったときはお互い様」「お互いに関心をもち、教え合うのは当然」)という暗黙のルール)が共有されている場合、職場は集団としてひとつにまとまろうとし(集団凝集性といいます)、相互に補充し合う関係を形成します。ここにいう規範を、組織(職場)文化と言い換えても良いでしょう。また、問題意識を共有し、共に取り組むべき課題を共有することも、集団は凝集性を強化します。価値(判断)基準として主に課で設定される使命(ミッション)はここに当てはまります。

 たとえ「時短勤務者や育休取得者がいても、何とか乗り切ろう」という集団内の規範は同意できても、メンバーが納得するような仕事の平準化が図られていなければ、負荷がかかるメンバーの不満は募っていきます。

 ましてや、仕事に手を抜いたり、メンバー同士でカバーし合おうという動きに加わろうとしないメンバーをマネジャーが放置していたら、どう思うでしょうか。メンバーを注意し、諭し、方向性を合わせるように仕向けることは、人事評価者としての、そして、人材マネジメントをする者としての責務です。


【高い個人の自律性】
 しかし、集団凝集性の高い職場は、別の側面からみると息苦しい組織でもあります。職場内に共有される規範が、同調圧力を生むからです。どんなに良いコトであっても、他者から強要されると腰が引ける、という経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

 また、集団凝集性が高いのみでは、メンバーは自分で考えなくなったり(ロボット化)、外部からの意見や批判を受け容れなくなったりする危険もあります。

 求められるのは、「仕事を中心とした働き方(生き方)」に関する自分の確固たる考えをもちつつ、主体的に集団と関わろうとする人材です。このような人材であってこそ、前向きに自分の価値観と職場の接点を探し、前向きに解決しようと努力をするからです。
 めざすべきは、集団凝集性も個人の自律性も高い職場です。




【働き方改革でこそキャリアを考える必要がある】
 働き方改革は、時間外労働を削減し、ワーク・ライフ・バランスをとり、これまで活躍できなかった人材も活躍してもらおうという試みです。この改革の中では、自分の仕事や働き方と私生活に関するビジョン(あるべき姿)を明確にし、それとの対比で現在の自分の仕事の意義を考える必要があります。すなわち、「仕事を中心とした人生そのもの」=キャリアを考えることなくしては成り立ちません。

 働き方改革というと、
 ① 仕事の分野(事業の見直し・業務改善・段取り・タイムマネジメント等)
 ② 集団の凝集性を高める分野
 (ビジョン・ミッションの策定・OJT・マネジメント上の問題と解決・組織文化改革等)
  に偏り、
 ➂ 個人の自律性を高める分野(キャリア開発・キャリア開発支援)
  が手薄になりがちなように思います。
 働き方改革を契機に、職場のひずみが顕在化している現在こそ、職場の「あるべき姿」を実現するため、ひとりひとりが自分のキャリア像をもつ必要性を感じます。

以上


(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師
 後閑 徹


  上記コラムに関連する研修カリキュラムのご紹介
    ・① 仕事の分野
      14.仕事の効率アップ研修
      15.タイムマネジメント研修
    ・② 集団の凝集性を高める分野
      25.新しい組織文化創造研修
      28.風通しの良い職場づくり研修
    ・➂ 個人の自律性を高める分野
      17.キャリアデザイン研修(初級職員向け)
      18.キャリアデザイン研修(中級・上級職員向け)








平成29年(2017年)5月
 ワーク・ライフ・バランス(働き方改革)に取り組む際に
                     理解していただきたいこと

【はじめに】
 今年3月、内閣府より「男性の働き方改革・意識改革に向けた職場のワーク・ライフ・バランス推進のための取組事例集」が発表されました。ヒアリング調査対象は、以下の3つの点から選定された企業です。

① 従業員の働き方改革、ワーク・ライフ・バランス推進のために実施した取組の結果、
  男性従業員に生じた変化として、以下を選択している企業
  (ⅰ)育児・家事への参画
  (ⅱ)地域活動への参画
  (ⅲ)介護への参画
  (ⅳ)その他でユニークな回答のある企業
② 従業員の働き方改革、ワーク・ライフ・バランス推進のために実施した取組の結果、
  男性従業員に生じた変化として、「ライフの充実を通じた業務へのフィードバック」を
  選択している事例
③ 導入経緯に「本業へのプラスのフィードバック」を挙げている事例のうち、
  取組の結果、男性従業員に何らかのポジティブな変化が生じていると回答している事例

  参考URL : http://wwwa.cao.go.jp/wlb/research.html(内閣府ホームページ)


 お伺いする地方自治体でも、ワーク・ライフ・バランスの実現や、いわゆる「ゆう活」に取り組まれているとお聞きすることが多くなり、研修のご依頼も増加しています。紹介されている取組の中には、バディー制(複数担当制)、多能工化、時間外労働の見える化、時間がかかる業務プロセスを見直す場の設定、電話・メールの最終時刻の徹底等、地方自治体組織でも参考に出来る「仕組み」が多々あるように考えます。





【ワーク・ライフ・バランスの実現は、役割葛藤の解消を組織(職場)が担うこと】
 私たちは、人生においていくつかの役割を担い、年代とともに変化させています。下図は、米国のキャリア開発・教育学者・D・スーパーのライフ・キャリア・レインボーです。


 D・スーパーは、成長期(0~15歳)、探索期(16~25歳)、確立期(26~45歳)、維持期(46~65歳)、下降期(66歳~)というライフステージにおいて、①子ども、②学生、③余暇を楽しむ人、④市民・住民、⑤職業人、⑥配偶者、⑦家庭人という役割とその幅を変えていく、としています。仕事に比重をおく時期もあれば、子育て期の家庭人のように生活に比重をおく時期もあります。介後の担い手として、年を経てから再度子どもの役割を果たす人もいます。  多くの役割を担うとき、育児(家庭人)・介護(子ども)と仕事(職業人)のように、互いに両立できない2以上の役割に悩む状態を役割葛藤といいます。 そして、役割の葛藤の解消を二者択一的に考え、判断を本人(個人)に任せてきたのが、これまでの社会・組織でした。昨今のワーク・ライフ・バランスの取組は、役割葛藤の解消を、個人の問題にせず、組織(職場)として取り組むべき問題へと移行させた点に大きな意義があります。


【ワーク・ライフ・バランスに関する批判的声に応えて】
 働く女性の問題に関わり、多くのインタビュー調査をしてきた私は、「活躍するか否かは個人の自由の問題だ」「ワークをとる生き方があっても良い」という批判的な声をよく聞きます。確かに、どのような働き方をするかは個人の自由であり、自己決定が尊重されるべきでしょう。私も同意します。 しかし、選択をするには、前提として選択可能性が必要です。働き方に対する個人の選択の余地が無い状態において、個人の選択の自由をいうのは背理ではないでしょうか。個人の選択をいうなら、まずは選択可能性を広げなければならないはずです。現在のワーク・ライフ・バランス政策は、仕事か生活かのどちらかしか選択できなかった状態に、仕事をしながら生活を充実させるという道をひらこうとするものです。働き方は個人の自由の問題である、という正論は、このような選択の余地を広げた後に実現するものではないでしょうか。


【最後に】
 女性活躍推進が政策として本格的に動き出す前、ある専業主婦の方にインタビューさせて頂いたことがあります。自分の能力をもって人に貢献する仕事に意義を認めていた彼女は、出産を機にワーク・ライフ・バランスの困難を見極め、仕事を辞めました。彼女が言った、「もう滅私奉公するような働き方をする時期は終わりました」という言葉が強く印象に残っています。仕事か生活かの二者択一を迫るのではなく、仕事と生活の調整を図る仕組み・機能が、現在の組織(職場)には求められています。

以上


(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師
 後閑 徹






平成29年(2017年)4月
 新入職員OJT担当者の皆様へ

 いよいよ新年度が始まりました。新入職員を迎える職場も多いことでしょう。新入職員は、夢と希望と不安と現実が交錯している時期がしばらく続きます。同じ組織、地域を支える仲間として、十分な準備をして迎えて頂きたいと思います。

 OJT研修では、仕組み作りや技術的側面に時間を割く必要があるため、ここでは、日頃、掘り下げて話すことができない新入職員OJT担当者の意義について、組織文化の観点から解説してみたいと思います(制度設計や指導内容、コミュニケーションの留意点等のスキルについては、是非、研修をご活用ください)。
   参考URL : http://www.amri.co.jp/seminar_guide_pdf/34.pdf


 新入職員は、「いわば異文化からの来訪者」です。新たな文化の入り口に立ち、案内役となる新入職員OJT担当者は、以下の3つの役割があります。

       1.新たな文化の「案内者」
       2.初めて身近に接する「文化を体現する者」
       3.「新たな組織文化に染めようとする者」





【OJTとは】
 OJTとは、On the job trainingの略で、職場内研修を意味します。仕事と直接・間接に関係する知識・技術を、職員自らがその職場において教え合い、学びあう活動です。一般的なOJTでは、職場で担当する「仕事の知識・技術」(図:仕事のピラミッド④)の習得を目的とし、必要に応じて③「職場の知識」を対象とします。



【新入職員OJT担当者は3つの役割を意識する】
 では、新入職員OJTの場合も対象は同様でしょうか。新入職員の場合、①②の分野は集合研修(Off-JT)、③④はOJTで身につける、といった自治体組織が多いでしょう。しかし、これは教える側の便宜であって、教えられる新入職員の側からすれば、「新たな世界を知るための知識・技術・その他の決まり事」という点では③④と何も変わりはありません。

 OJTを受ける新入職員は、職場で教えられる③④のみならず、休憩時間のちょっとした言動や態度から、①②までを読み取ろうとします。「異文化からの来訪者」が、初めて身近に接する「組織(職場)文化を体現する者」がOJT担当者です。言葉以外の態度・仕草等の情報(ノンバーバル情報)が重視され、一方的に解釈され、「そういうもの」として受け容れられます。

 たとえば、人材育成方針にある「めざす職員像」を質問されたとき、OJT担当者がこれに重きを置かず、あるいは冷笑的な態度をとれば、新入職員は「めざす職員像」を蔑ろにするでしょう。たとえば、担当者が忙しさ・厳しさの中にも人に対する思いやりをもって接すれば、職場の在り方・働き方として、その姿勢を取り込んでいくでしょう。

 OJT担当者は、通常、④「仕事の知識」を教えることに注力をしています。しかし、新入職員は、④を通じて③~①の知識ピラミッド全体を体感し、学び、取り込みます。また、それらに対するOJT担当者の態度・評価を通じて、新たな組織やその文化・風土を「そういうもの」として受け容れていこうとします。

 この意味で、新入職員OJT担当者は、自分が無意識のうちに表現している「組織文化の色に染める者」であることを避けて通れません。誤ったメッセージを発しないように留意したいところです。

 では、誤った色に染めないためには、どうしたら良いでしょうか。
 それは、仕事に対し真摯に取り組み、人に対して誠実に対応を心がけ、実践することでしか対処できないと考えます。2つの文化が衝突し、融和していく過程では、お互いが謙虚になり、お互いに興味をもち、理解し合おうという姿勢を心がけることが必要です。

 「かもしれない」という姿勢は、対象を動くもの、動態的に捉えることです。自分を疑いつつ、自分の判断を信じる。信じつつ、疑う、という曖昧さに耐えることが求められているのです。


【最後に】
 自分の仕事をもちながら、新入職員のOJTを担当することは、大変骨の折れることです。しかし、Teaching is learning.(教えることは学ぶこと)というように、OJTで教えることは、目的に照らして仕事の意義をみつめ、手順を見直し、考える機会です。

ましてや、相手は「異文化からの来訪者」です。いつの間にか凝り固まってしまった「組織(職場)の常識」に対する新鮮な視点を提供してくれるはずです。

自治体組織を、そして地域を、住民を支え、未来を切り拓く仲間として、共に学ぶ気持ちで、新入職員に接して頂きたいと思います。

以上


(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師
 後閑 徹






平成29年(2017年)3月
 時間外労働削減に挑戦する際の留意点

【時間外労働の削減は、個人の業務改善努力で可能か】
 時間外労働の削減は、官民問わず取り組まなければならない優先順位の高い課題です。自治体でも、ノー残業デイの実施や、終業後一定時間での消灯、時間外労働の上司の許可制等の取り組みがなされています。
 その際に必ずといって良い程挙げられるのが、「仕事の仕方の見直し」です。そして、その言わんとすることの多くは、仕事の効率化・職場での業務改善であり、つまるところ個人の努力如何になっている職場が多いでしょう。

 しかし、個人の業務改善努力で時間外労働の削減が可能であるというためには、「無駄な仕事」が時間外労働の多さの原因であることが分析されている必要があります。果たして、自治体組織における時間外労働の原因は、「無駄な仕事」にあるのでしょうか。


【時間外労働が必要となる原因の探求】
 以下は、厚生労働省の「平成28年 過労死等防止対策白書」に記載されているデータです。厚生労働省が、所定外(=時間外)労働が必要となる理由を企業側、労働者側の2者の観点から調査しています。


<所定外労働が必要となる理由(企業調査)>



<所定外労働が必要となる理由(正社員(フルタイム)調査)>

それぞれの立場からの理由の上位3項目は下表の通りです。

 〈所定外労働が必要となる理由〉
  企業側の理由 労働者側の理由
1位
顧客からの不規則な要望に対応する必要があるため(44.5㌽) 人手が足りないため(仕事量が多いため)(41.3㌽)
2位
業務量が多いため(43.3㌽) 予定外の仕事が突発的に発生するため(32.2㌽)
3位 仕事の繁閑の差が大きいため(39.6㌽) 業務の繁閑が激しいため  (30.6㌽)
  ※「平成28年過労死等防止対策白書」第2-7・2-8図を元に筆者作成      
  ※ ポイントは調査対象の全業種平均

 興味深いのは、企業側の理由です。そこには、労働者側の理由に上がっていない、「スケジュール管理のスキルが低いため」、「マネジメントスキルが低いため」、「労働生産性が低いため」という理由がありますが、それぞれ6.3ポイント、4.9ポイント、4.4ポイント、と極めて低いことがわかります。すなわち、企業側としても、仕事の進め方や管理の仕方の問題を時間外労働の主たる原因とは考えていないのです。

 上位3位に挙げられている理由は、どれも組織として対応しなければ解決できない課題です。そして、その取り組みは、経営トップを含めた管理監督者層の責務に他なりません。


【自治体組織では?】
 では、翻って、自治体組織では如何でしょうか。

 民間企業と異なり、自治体組織は仕事の種類が多く、業務改善を組織的・定型的にすることは出来ません。また、特に一般事務行政職は職員数も減少しています。管理職のプレイングマネジャー化、監督職の完全プレイヤー化も進み、仕事の管理が十分出来ず、自己流の仕事の仕方が蔓延している部署も民間企業に比べ多いかもしれません。その意味で、業務改善の必要性を否定することはできないでしよう。

 しかし、自治体組織に、民間企業と同様の問題がないといえるでしょうか。研修において、突発的仕事の存在も、人員と仕事量の不均衡も、繁閑期の差も、よく受講生の方々から出てくる言葉です。
 今から10数年前、ある著名な経営学者の著書で、「組織は、組織の問題を個人の能力の問題にすり替える」という趣旨の言葉に出会いました。当時、マネジメントをする立場であった人間として、私自身が肝に銘じた言葉です。

 さて、皆様の組織は、組織が解決すべき問題を個人の問題にすり替えてはいないでしょうか。重大な問題であるからこそ、この問題の真の原因を厳しく見つめ、分析し、有効な解決策を策定する必要があります。そして、それは、取りも直さず、管理監督者層の責務です。

以上


(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師
 後閑 徹

参考:厚生労働省:平成28年版過労死等防止対策白書





平成29年(2017年)2月
 曖昧さに耐える知的忍耐力の必要性

 昨年の11月1日、NHK朝のニュース「おはよう日本」で、某自治体における災害時の相互扶助の仕組みが取り上げられていました。番組では、災害時には、80歳の男性が、昼間ひとりでいることの多い88歳の男性を伴って避難する役割と紹介されていました。このような施策は、高齢者を一律に「支援される人」と認識していては出てこない発想です。そして、これは、現在すすめられている「地域共生社会」の考えと軌を一にする政策です。

【地域共生社会】
 子供・高齢者・障害者など全ての人々が地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる「地域共生社会」を実現する。このため、支え手側と受け手側に分かれるのではなく、地域のあらゆる住民が役割を持ち、支え合いながら、自分らしく活躍できる地域コミュニティを育成し、福祉などの地域の公的サービスと協働して助け合いながら暮らすことのできる仕組みを構築する。(略)

下線は筆者  ニッポン一億総活躍プランより





【社会の進化(深化)がもたらすもの】
 言語は、ひとつの事象を概念化する(定義付ける)ことで、Aと非Aを峻別し、論理を構成する前提となりました。したがって、前提にある概念・定義が崩れれば、当然、これまでの論理も維持できません。

 しかし、上記の例のように、社会の変化は、私たちに言語の(そして、概念の)見直しを迫ります。分析的に観ると、何事であってもAと非Aの間(あわい)が限りなく不確かなことが認識されます。

 例えば、これまでは、一定の年齢(60歳~65歳)になると、あたかも階段を一段上るかのように、後進に道を譲り、知恵を授け、支援・育成する役割が社会から求められてきたはずです。しかし、近年は、未だに最前線で自分が何者かであろうとする元気な高齢者が増えています。単純な善悪二分論に基づく勧善懲悪のドラマや時代劇が激減したのは、何も偶然ではありません。

 私たちの社会は、世界を単純化して認識することを拒否する時代に入っているのかもしれません。そして、それは同時に、これまでの論理を根本的に見直さなければならない時代でもあるはずです。


【求められるのは曖昧さに耐える知的忍耐力】
 ものを、色のグラデーションのように曖昧なまま認識することは、大変疲れることです。「Aとは・・・である」と割り切るほうがどれだけ楽でしょう。「AとはA的なものを含む総称である」というものの見方は、「Aとは・・・である、かもしれない」というように常に判断を固定させることが出来ません。

 「かもしれない」という姿勢は、対象を動くもの、動態的に捉えることです。自分を疑いつつ、自分の判断を信じる。信じつつ、疑う、という曖昧さに耐えることが求められているのです。

 愛憎相食むという言葉があるように、私たちは時に、相反する価値を同時にもつことがあります。このような状態をアンビバレント(ambivalent)といいます。

 矛盾した状態を自己の中にもつことは苦しいことですが、そのような状態をまるごと観察する姿勢が、これからの時代には必要なのではないでしょうか。そして、社会の変化を取り込むものとして、「今そこにあるもの」をよりよく認識するためには、アンビバレントな状態に耐える知的忍耐力を養う必要があるように思います。そして、それはきっと、物事や人に対し、真摯に向き合うことでしか成しえないことだと、考えます。

以上


(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師
 後閑 徹





平成29年(2017年)1月
 自治体職員が「社会正義」を考える必要性について

【環境・時代の変化を取り込む】
 組織は、刻々と変化し続ける環境を取り込みながら、自らを変化させ、存続します。デジタルカメラの普及に対応できなかったフィルムメーカーコダック社は倒産し、パソコン市場の過当競争時代の到来を予測したIBMは、パソコンメーカーから情報ソリューション企業へと転換し、日立はインフラ事業を進めています。

 市場や時代に合わない企業の末路は、衰退・倒産です。この過程で余剰した労働者は、新興産業へと移動し、時代を進めます。しかし、民間企業と異なり、憲法に基礎づけられた自治体組織は、倒産することが許されていません。だからこそ、自治体組織は民間企業以上に外部環境を取り込み、変化していく必要があるのです。


【外部環境変化がもたらすもの】
 TPPの動向、介護人材の要件緩和による介護分野における外国人増加、IoTの進化、気候変動による適作地の変化、団塊の世代の後期高齢者入り、高齢者加害による交通事故の増加etc. これらの外部環境変化は市民生活に直接影響を与えます。

 そして、外部環境の変化は地域の要求(ニーズ)の変化を生み、それに応じた組織変革・人材育成・事業形成(&スクラップ)を必要とします。

 しかし、それだけではありません。憲法の理念を地方自治の枠組みで実現する自治体職員の皆さんは、全体の奉仕者として社会正義〔i〕の実現をする責務を負っています。その社会正義の内実もまた、時代とともに変化します。例えば、人工知能(AI)について考えてみましょう。

【問 題】
 人工知能(AI)搭載車が、一方通行の道を走行中に前方を走行する車が急停車しました。右にハンドルを切れば老人夫婦にぶつかり、左にハンドルを切れば親子にぶつかる状況で、どちらにハンドルを切るべきでしょうか。

 研修中、聞いたところ、この問いに対し、「右(老夫婦)を選ぶ」と答えた方が9割以上でした。

 これは命を余命の長さで考えるということでしょうか。将来性?逸失利益?社会的損害?どれも妥当でないような気がします。この問いは、人間自身が考えなければならない哲学的な問題であり、人工知能(AI)に決定させる類の問題ではありません。

 これまでであれば、刑法・民法上の責任は、緊急避難の成否に解消され、倫理的避難は、個人に帰するでしょう。しかし、自動運転車において、人間と車の判断が食い違った場合、車の判断を優先することで法制化の準備が進んでいます。個人に向けられた倫理的非難さえも、個人から切り離されることになります。

 私たちは、「なぜ、老夫婦を選んだのか」、という被害者やその親族の非難や怒り、悲しみに対し、どう答えれば良いのでしょうか。

 また、世代間対立・地域間対立が、今後より激しくなれば、限られた財の分配基準が必要となるはずです。その根底にもまた、社会正義を如何に考えるか、が横たわっています。





【組織の面からみる「社会正義を考えること」の必要性】

組織ビジョン:組織のあるべき姿
組織目的:組織が獲得すべき価値

 組織ビジョン・組織目的の策定には、社会正義を含む外部環境の変化と予測が取り込まれます。そして、組織ビジョン・組織目的を背景にした組織目標により、事業が生み出されます。すなわち、社会正義は、時に事業を統制・制御し、時にその実現する内容そのものとなるのです。

 例えば、生活保護需給者数の「適正化」をすることは、財政上の理由から求められることでしょう。そのために「数値目標」を設定した自治体もありました。

 昨年12月7日に厚生労働省より発表された生活保護受給者数は過去最高を更新し、163万6302人。そのうち、65歳以上の単身高齢者世帯が増加し、対策は待ったなしです。

 しかし、だからといってこの問題を、財政面からのみ考えて良いはずはありません。福祉政策であることの意味、福祉が必要とされる意味、ひいては社会正義とは何か、という観点からの検討がなければ、生活保護受給者数の「数値目標」を設定することは極めて危険です。現に、政策形成研修の現場では、そういった「危険な単一視点」の政策案が出てくることが、少なからずあり、危惧の念を抱きます。

 様々な利害関係人をもち、多様な要求を受けながら、限られた資源で自治体を運営することは、大変難しいことです。しかし、そのような多様性を切り捨て、単一の視点・価値で割り切ることもまた危険です。「多様な価値、視点を如何に統合していくか。」この困難に立ち向かうのが地域の未来を創る責務を負った自治体職員の仕事ではないでしょうか。

 社会的正義とは何か、その解答を出すことは決して容易なことではありません。しかし、その容易でないことを探求し続けることが、自らの判断・行動を常に顧み、検証し、修正する姿勢へとつながるはずです。


【最後に】
 変化を取り込むということは、変動する要求・思考・価値・そして、それらの背景にある社会正義を考え、実現することです。その困難さに立ち向かう自治体職員の皆さんには、自らの職務の重大さと、それに取り組む大いなる誇りを思い出していただきたいと思います。


[i] 社会正義とは、自分自身と他者の視点を入れ替えて考えても納得できる、価値的判断基準。
 どのような状況においても、誰にとっても絶対的に正しいといえる社会正義は存在しない。
 (政策形成研修テキストより)


以上


(株)行政マネジメント研究所 コンサルタント・専任講師
 後閑 徹



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